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第14回コラム
「問題がモンダイ」
J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!5
ディレクター 馬場 保仁

「サカつく5」も既に発売になり、皆さんにも遊んでいただけていると思いますが、いかがでしょうか? このコラムでわたしが書いてきております、いろいろな観点にも留意して、プレイしていただけますと、また違った発見があるかもしれません。
さて、このコラムでは、何回かにわたってサッカーに関する書籍を紹介してきました。
ですが、今回は少し趣をかえて、サッカーからは離れてゲーム開発という観点から、サッカー以外の本を紹介したいと思います。

わたしが今回に限らず、ゲームを企画し、開発していく際には、いつもぶつかる様々な困難
や問題に関してどう対処していこうか?と困るわけですが、先日たまたま本屋をぶらつい
ておりましたら、面白いタイトルの書籍を目にしました。

問題がモンダイなのだ

著:山本 貴光/吉川 浩満
新書: 126ページ
出版社: 筑摩書房 (2006/12)
ISBN-13: 978-4480687524

タイトルからも、かなり惹きつけられるものがあります。
そう、問題があることに気がつけるかどうか? 問題発見能力があることこそが、問題解決には一番近いであろうというのが常々、わたしの実感ではあるのですが、それをまさに表現している
タイトルのように思えたからです。

ゲーム開発においては、様々な問題が発生します。
初期に設定したコンセプトと、実際に開発をすすめていくうちに創り込んでいるものが、
微妙に方向性がずれていってしまうことなどは、まま発生する問題です。特にゲームの規模
が大きくなればなるほど「ゲームの最終形」である完成イメージを共有すること、もしくは最悪の場合、そのイメージを持つことがなかなか困難になります。本来は、初期コンセプトをコア(核)としてそのコンセプトを実現させるための各個別の命題が存在し、それらは、コアにぶらさがる枝葉になっていなくてはいけないわけです。

ですが、往々にして各担当にわかれて作業を進めていくうちに「ベストを尽くそうとする」があまり、各論が面白くなるようにするとその分、独自性が色濃くでてしまいコンセプトからはずれていってしまう、、、ということがまま起こりうるのです。
この状態が起きてしまっていることを如何に早期に発見して、解消していくか?が1つのトータルパッケージとしての商品として成立させることにつながります。

ただ、各自が一生懸命遊んでくださる皆さんを喜ばせようと知恵を絞っているものを制限しなくてはいけないというのは、チームを取り仕切るものとしては非常に辛いところではありますが、早期であれば、それもダメージは少なく実行できます。これが後になればなるだけ「こんなに必死にやったものが無駄になっちゃうの?」という感じで各自に徒労感が非常に強くなります。と、なると如何に各自にコンセプトを意識させて仕事をしてもらうのか?というのが重要になるのは当たり前だとして、早期の「確認」作業こそが一番大切な行為であるということになります。この書籍でも、問題は、

解決する
解消する

の2つの方法があると述べられています。まさにそのとおりです。解決と解消の違いはなんと定義しているかは本書を参照していただきたいところではありますが簡単にいうと、

解決する → 発見した問題に対して、どのようにその問題の答えをみつけて対応するか?
解消する → 発見した問題自体を意味の無いものにするか、問題を排除する等の対応

でしょうか。「解決する」ことができればもちろん、一番よいでしょう。ですが往々に
して問題を解決するには、

時間

等々、リスクを回避するためにかけねばならないコストが発生することが多いです。

これは、ゲーム開発に限らず、仕事であればよくあることだと思います。ですが、残念ながら、問題発見が遅くなればなるほど、上記のコストを「多く必要とする」ことになってしまいます。ですので、確認作業という早期の問題発見は非常に重要なファクターだということです。

あとは、問題解消は、問題がなかったことにするなどして対応することです。たとえば、「サカつく」を開発中に、

「スポンサーからの収入が他に比べて大きすぎて非常に
バランスが悪い」

という問題が発生したとします。このとき、バランスの調整をするのが「解決」ですが、スポンサーという要素自体をなくしてしまう、もっと極端な対応としては、お金という要素自体をなくしてしまう、などすれば、問題は霧散してしまい、ある意味「解消」されるわけです。

ただし、確かに最初に発生した問題は解消されたかもしれませんが、ゲームとして商品のクオリティはそれでいいのか?という本質的な問題が新たに発生することになると思います。スポンサーをなくすのであれば別の収益をあげる手段を用意しなくてはいけないかもしれませんし、お金をなくすのであれば、それで成立するゲームデザインをしなくてはいけないでしょうから。

問題解消は、端的あるいは部分的には問題をなくすかもしれませんが別の問題を発生させる原因になるかもしれません。(もちろん、「サカつく」自体をつくらなくする、という問題解消方法もあるでしょうが、そうすると「サカつく」であげるはずであった売り上げを何であげるのか? という別の問題がやはり発生することになります。開発者の問題ではなく会社経営としての問題に、問題の対象がすりかわるだけですね)

ですが、この「問題解消」を考えることで早期であれば、

「コンセプト自体の正当性・妥当性」

を再確認することもできるかもしれません。いずれにせよ、7000円以上の商品をお買い上げいただくユーザの皆さんのことを考えれば、当たり前ですが、常に全力で、且つ、注意深く開発をしていかねばならない、ということをこの本を読むことで再認識した次第です。

この本自体は、決して、HOW TO本ではありませんが、読む人によってはこれをきっかけに自分なりの問題発見方法を構築することができるようになるかもしれません。問題発見ができれば、解決、解消というのは、それほど難しいことでありませんし、結局しないと困るだけですので、なんとかするしかないことになりますからね(笑)。

そうそう、サッカーに関するくだりも1つありました。

「ファンタジスタ」は、常人の考え付かない問題解決方法を見出す人だ、と。サッカーでは、ボールホルダーが周囲をDFに囲まれれば、そりゃわかりやすい「問題」のタイミングですよね?(笑)この状況で解決方法を思いつきづらいと厳しいですが、ファンタジスタは常人には見えないところに道なき道を発見するのでしょう。(もしくは発見しなくても普通に見えている)

それでは、今回は以上で。

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